会社都合退職は、従業員にとっては失業保険の優遇などメリットがある一方、会社側には助成金の受給停止や訴訟リスク、風評被害など多くのデメリットが伴います。
本記事では、会社都合退職が会社側に与える5つのデメリットを中心に、避けたがる本当の理由やよくあるトラブル事例、正しい手続きの流れまで、押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
会社都合退職とは?会社側が押さえるべき基本知識

会社都合退職とは、倒産やリストラ、経営悪化による人員整理など、会社側の事情によって従業員との雇用契約を終了させることを指します。従業員本人の意思ではなく、あくまで会社の判断や都合が退職の原因となっている点が最大の特徴です。
会社側にとって重要なのは、「会社都合退職」に該当するかどうかの判断を誤ると、助成金の不支給や訴訟リスクなど深刻なデメリットにつながるという点です。また、会社が離職証明書に記載した退職理由に従業員が異議を申し立てた場合、最終的な判断はハローワークが行います。つまり、会社側が「自己都合」と処理しても、実態が会社都合であればハローワークの調査で覆される可能性があるのです。
ここでは、どのようなケースが会社都合退職に該当するのかを正しく理解しておきましょう。
会社都合退職に該当するケース
会社都合退職に該当するケースは、解雇や退職勧奨だけに限りません。従業員が自ら退職届を出した場合であっても、その原因が会社側にあると判断されれば、会社都合退職として扱われることがあります。以下に代表的なケースを解説します。
解雇(普通・整理・懲戒)の場合
解雇は、会社が一方的に労働契約を解除する行為であり、会社都合退職の代表的なケースです。解雇には大きく3つの種類があります。
「普通解雇」は、能力不足や職務規律違反などを理由に行われるものです。「整理解雇」は、経営悪化による人員削減を目的としたもので、いわゆるリストラがこれに該当します。「懲戒解雇」は、従業員の重大な規律違反に対するペナルティとして行われる最も重い処分です。
ここで注意すべきなのが、懲戒解雇であっても、雇用保険上は会社都合退職として扱われるケースがあるという点です。「従業員に非があるから自己都合だろう」と安易に判断すると、離職票の記載をめぐってトラブルに発展しかねません。解雇の種類を問わず、会社が一方的に雇用契約を解除している以上、原則として会社都合退職になると認識しておくことが重要です。
退職勧奨に応じた場合
退職勧奨とは、会社が従業員に対して「退職してほしい」と提案する行為です。解雇のような法的強制力はなく、あくまで「お願い」にすぎません。従業員が同意しなければ退職は成立しないため、一見すると自己都合のようにも思えます。
しかし、退職のきっかけが会社側にある以上、退職勧奨に応じた退職は会社都合退職として扱われます。雇用保険法施行規則においても、「事業主から退職するよう勧告を受けた」者は特定受給資格者になると規定されています。
会社側が「従業員の問題行動が原因だから自己都合だ」と主張しても、退職を促したのが会社である以上、認められません。実際に、退職勧奨なのに自己都合退職として処理した企業が、退職金や失業保険の差額分として約275万円の支払いを命じられた裁判例も存在します。事実を歪めて離職票に自己都合と記載することは、後に大きなリスクとなる点を認識しておきましょう。
ハラスメント等で退職を余儀なくされた場合
形式上は従業員が自ら退職届を提出していても、その背景にパワハラやセクハラ、大幅な賃金カット、長時間の時間外労働などがあった場合、ハローワークによって会社都合退職(特定受給資格者)と認定されることがあります。
具体的には、以下のようなケースが該当する可能性があります。
たとえば、3か月連続で月45時間を超える時間外労働があった場合、従来の賃金が85%未満に低下した場合、事務所移転により通勤が著しく困難になった場合、労働契約時に明示された条件と実態が著しく異なっていた場合などです。
会社側として見落としがちなのが、「従業員が自分から辞めたのだから自己都合だ」と思い込んでしまうことです。たとえ退職届が提出されていても、離職の原因が会社側の労務環境にあると判断されれば、会社都合退職として扱われます。ハラスメントの放置や劣悪な労務環境は、意図せず会社都合退職を生み出す原因になり得るのです。
自己都合退職との違いを会社側の視点で比較
自己都合退職とは、転職や結婚、引っ越しなど、従業員個人の事情によって退職することです。会社都合退職との違いは、単に退職理由が異なるだけでなく、会社側にとっての影響やリスクが大きく変わる点にあります。
まず、失業保険(雇用保険の基本手当)の扱いが異なります。会社都合退職の場合、従業員は待機期間7日間の後、約1か月で給付が開始されます。一方、自己都合退職では原則1か月の給付制限期間が設けられています。給付日数も、会社都合退職は最大330日であるのに対し、自己都合退職は最大150日と大きな差があります。
退職金についても注意が必要です。多くの企業では退職金規定により会社都合退職のほうが支給額は高く設定されています。平成30年の平均調査では、大卒の場合で約650万円、高卒で約900万円の差があったとされるデータもあります。
そして会社側にとって最も影響が大きいのが、助成金の受給制限です。自己都合退職であれば助成金への影響はありませんが、会社都合退職の場合、キャリアアップ助成金やトライアル雇用助成金など、多くの雇用関連助成金が一定期間受給できなくなります。
会社都合退職による会社側の5つのデメリット

会社都合退職は、従業員にとっては失業保険の優遇などメリットが大きい一方、会社側にとってはさまざまなデメリットが発生します。「助成金を受けていないから関係ない」と考える経営者もいますが、実際には助成金の問題だけにとどまりません。訴訟リスクや金銭的な負担増、さらには企業イメージの毀損まで、経営に直結するリスクが複数存在します。
ここでは、会社都合退職によって会社側が被る5つの主なデメリットを詳しく解説します。いずれも知らなかったでは済まされない内容ばかりですので、経営者や人事・労務担当者はしっかり押さえておきましょう。
雇用関連の助成金が受給できなくなる
会社都合退職による会社側の最大のデメリットといえるのが、雇用関連の助成金が一定期間受給できなくなることです。
厚生労働省が実施する雇用関連助成金は、「雇用の安定」や「労働者の処遇改善」を目的とした制度です。会社都合で従業員を離職させることは、この趣旨に真っ向から反する行為とみなされます。そのため、大半の助成金において、会社都合退職者を出した事業所は一定期間支給対象外となるのです。
影響を受ける代表的な助成金としては、キャリアアップ助成金、トライアル雇用助成金、特定求職者雇用開発助成金、人材開発支援助成金、中途採用等支援助成金などが挙げられます。特に中小企業にとっては、これらの助成金は貴重な経営資源であり、受給できなくなることは資金繰りに直接的な影響を及ぼしかねません。
なお、助成金を受給したいがために、会社都合退職であるにもかかわらず離職票に「自己都合」と虚偽の記載をすることは不正受給にあたります。不正が発覚すると、助成金の返還に加え、処分日から3年間はすべての雇用関係助成金の申請が不可能となり、さらに事業者名の公表や刑事告発に至るケースもあります。
キャリアアップ助成金への影響
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の従業員を正社員に転換したり、処遇を改善したりした企業に対して支給される助成金です。中小企業の活用率が高く、正社員化コースでは1人あたり最大80万円が支給されるなど、経営への恩恵が大きい制度として知られています。
しかし、キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、「正社員に転換した日の前日から起算して6か月前の日から、1年を経過する日までの間」に会社都合退職者を出した事業所は支給対象外となります。つまり、会社都合退職者が1人でもいれば、約1年半にわたって正社員化コースの助成金を受け取れなくなる可能性があるのです。
さらに、特定受給資格者の数が事業所の被保険者数の6%を超え、かつ4人以上発生した場合にも支給対象外となります。この要件は見落としやすいため、注意が必要です。
トライアル雇用助成金への影響
トライアル雇用助成金は、就職が困難な求職者を試行的に雇い入れた事業主に支給される制度です。対象労働者1人あたり月額最大4万円(最長3か月間)が支給され、ミスマッチの防止と雇用機会の拡大を目的としています。
トライアル雇用助成金においても、「対象者の雇い入れ日の前後6か月間」に会社都合で雇用保険被保険者を離職させている事業主は支給対象外となります。キャリアアップ助成金と同様に、会社都合退職者を出すと約1年間にわたって受給の機会を失うことになります。
助成金の不支給期間は助成金ごとに異なりますが、いずれも「6か月前から」という起算点が設定されているのが共通点です。つまり、会社都合退職の影響は退職時点だけでなく、それ以降の助成金計画にまで波及するということを理解しておく必要があります。
不当解雇で訴訟リスクが発生する
会社都合退職の中でも、解雇による退職は訴訟リスクが最も高いデメリットの一つです。
日本の労働法制では、解雇に対する規制が非常に厳しく、労働契約法第16条により「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効」とされています。つまり、会社が一方的に従業員を解雇しても、正当な理由がなければ法的に認められないのです。
従業員が解雇に納得しなかった場合、労働審判や訴訟を起こされる可能性があります。裁判で解雇が無効と判断されれば、解雇から判決確定までの期間分の賃金(バックペイ)の支払いを命じられるケースが一般的です。裁判が長期化した場合、数百万円から1,000万円を超える賠償額になることもあり、中小企業にとっては経営を揺るがしかねない負担となります。
また、訴訟にかかる弁護士費用や、裁判対応に費やす人事担当者の工数も大きなコストです。解雇を検討する場合には、まず退職勧奨による合意退職を試みる、段階的な指導記録を残しておくなど、法的リスクを最小化するための事前準備が不可欠です。
解雇予告手当の支払い義務が生じる
会社都合で従業員を解雇する場合、労働基準法第20条に基づき、少なくとも解雇日の30日前までに「解雇予告」を行う義務があります。この予告をせずに解雇する場合、会社は「解雇予告手当」として30日分以上の平均賃金を従業員に支払わなければなりません。
解雇予告手当の計算式は次のとおりです。
「解雇予告手当 = 平均賃金 × (30日 − 解雇予告日から解雇日までの日数)」
ここでいう「平均賃金」とは、解雇日直前の賃金締切日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割って算出したものです。基本給だけでなく、残業代や通勤手当、各種手当も含まれます。
たとえば、平均賃金が1万円の従業員を即日解雇する場合、30日分の解雇予告手当として30万円を支払う必要があります。10日前に予告した場合でも、不足する20日分の20万円を支払わなければなりません。
経営が悪化している状況で急遽人員整理を行うケースでは、この解雇予告手当の支出が資金繰りを圧迫することがあります。自己都合退職であればこの支払い義務は発生しないため、会社都合退職特有のコスト負担といえます。
退職金が増額になる可能性がある
退職金制度を設けている企業の場合、会社都合退職のほうが自己都合退職よりも退職金が高額になるケースが一般的です。これは多くの企業の退職金規定において、退職理由によって支給率や計算方法を分けているためです。
自己都合退職では勤続年数に応じた減額係数が適用されることが多いのに対し、会社都合退職では満額支給やそれに近い水準の退職金が支払われるのが通例です。過去の調査では、大学・大学院卒で約650万円、高卒で約900万円もの差が生じるケースもあったとされています。
また、退職勧奨を行う際に従業員の合意を得るため、通常の退職金に上乗せして「特別退職金」や「解決金」を支払うケースも珍しくありません。1人の従業員に対する退職金の上乗せが数十万円から数百万円に及ぶこともあり、複数人を対象にリストラを行う場合は、会社の財務に相当な影響を及ぼします。
助成金が受給できないことだけに目が行きがちですが、退職金の増額も無視できないコスト増加要因です。退職勧奨や整理解雇を行う前に、退職金規定を確認し、想定されるコストを正確に把握しておくことが重要です。
SNS拡散等による風評被害を受ける
現代の企業経営において見過ごせないデメリットが、会社都合退職にともなう風評被害リスクです。
解雇や退職勧奨をされた元従業員が、不満や怒りからSNSや口コミサイトで会社の内情を発信するケースが増えています。「不当に解雇された」「退職を強要された」といった投稿は、拡散力の高いSNSでは短時間で広範囲に広がる可能性があります。
こうした風評被害が発生すると、企業には次のような悪影響が及びます。まず、企業ブランドや社会的信用が低下し、取引先やパートナー企業からの信頼を失うおそれがあります。次に、採用活動への悪影響です。転職サイトの口コミで「リストラが多い」「人を大切にしない」といった評価が広がれば、優秀な人材の応募が減少します。さらに、既存の従業員の士気低下も見逃せません。「次は自分かもしれない」という不安が社内に広がれば、生産性の低下や連鎖的な離職を招くリスクがあります。
一度インターネット上に拡散された情報は完全に削除することが難しく、長期にわたって企業イメージを損ない続けます。会社都合退職を行う際は、従業員への丁寧な説明と誠実な対応を徹底し、退職後のトラブルを最小限に抑える努力が求められます。
会社が会社都合退職を避けたがる本当の理由

前章では会社都合退職による5つのデメリットを解説しましたが、実際の現場では多くの企業が会社都合退職そのものを極力回避しようとします。中には、本来は会社都合であるにもかかわらず、従業員に退職届を書かせて自己都合退職の形を取ろうとする企業も存在するほどです。
なぜ、会社はここまで会社都合退職を避けたがるのでしょうか。その背景には、単なるコスト面の問題だけでなく、企業の持続的な成長を脅かす複合的なリスクがあります。ここでは、会社都合退職を避けたい会社側の本音ともいえる3つの理由を掘り下げていきます。
助成金停止による経営への打撃が大きい
会社が会社都合退職を避ける最大の理由は、雇用関連助成金の受給停止が経営に与えるダメージの大きさにあります。
前章でも触れたとおり、キャリアアップ助成金やトライアル雇用助成金をはじめとする多くの雇用関連助成金は、会社都合退職者を出した事業所に対して一定期間の受給制限を設けています。しかし問題は、1つの助成金が止まることではありません。会社都合退職者が1人でもいると、複数の助成金が同時に受給できなくなるという点です。
たとえば、非正規社員の正社員化でキャリアアップ助成金を活用し、新規採用でトライアル雇用助成金を受け、従業員教育で人材開発支援助成金を申請していた企業の場合、たった1人の会社都合退職によって、これらすべてが一斉に止まる可能性があります。年間で数百万円規模の助成金を活用していた中小企業にとっては、経営計画そのものの見直しを迫られる事態です。
さらに、助成金の不支給期間が終わるまで新たな助成金計画を立てられないため、人材育成や正社員化の取り組みが停滞するという二次的な影響も生じます。経営者にとって助成金は「もらえるとありがたい」という程度のものではなく、事業計画に組み込まれた重要な資金源であるケースが多いのです。こうした背景から、たとえ1人の問題社員を辞めさせたい場合でも、会社都合ではなく自己都合退職や合意退職の形を模索する企業が多くなっています。
企業ブランドや採用活動への悪影響
会社都合退職を避けたがるもう一つの大きな理由が、企業の対外的な評判に対するダメージです。
近年、転職口コミサイトやSNSの普及により、企業の内部情報はかつてないほど外部に伝わりやすくなっています。会社都合退職が発生した事実は、元従業員の投稿やネット上の口コミを通じて求職者の目に触れる可能性があります。「大規模なリストラがあった」「退職を強要された」といった情報が広がれば、求職者が応募をためらう原因となり、採用活動のコストや期間が増大します。
特に人手不足が深刻な業界では、採用力の低下は事業継続に直結する問題です。優秀な人材ほど転職先の評判をリサーチする傾向が強く、口コミサイトでネガティブな情報が目立つ企業は候補から外されてしまいます。
また、会社都合退職者が出たという事実は、取引先や金融機関からの信用にも影響を及ぼすことがあります。大量の人員整理が行われたという情報は「経営が不安定なのではないか」という疑念を生み、新規取引の獲得や融資審査において不利に働くケースもゼロではありません。
企業ブランドの構築には長い年月がかかりますが、毀損されるのは一瞬です。このブランドリスクを回避するために、会社はできる限り会社都合退職という形を取りたくないのが実情です。
他の従業員の士気低下を招く恐れ
会社都合退職の影響は、退職した従業員だけにとどまりません。実は、残された従業員の心理に与える影響こそ、企業が最も懸念するリスクの一つです。
同僚が会社都合で退職させられたという事実を知った従業員は、「自分も同じように辞めさせられるのではないか」という不安を抱きます。特にリストラや整理解雇の場合、対象者の選定基準が不透明であるほど、組織全体に動揺が広がります。「次は誰が対象になるかわからない」という疑心暗鬼は、職場の雰囲気を悪化させ、チームワークや業務効率の低下を引き起こします。
こうした不安は、優秀な従業員ほど早い段階で転職活動を始めるという行動につながりやすい傾向があります。市場価値の高い人材は転職先を見つけやすいため、結果的に企業に残るのはキャリアの選択肢が限られた従業員ばかりになるという悪循環に陥るリスクがあります。
加えて、退職勧奨や解雇が行われた際のプロセスが不誠実であった場合、残った従業員の経営層に対する信頼が大きく損なわれます。「従業員を大切にしない会社」という印象が根付いてしまえば、エンゲージメントの回復には相当な時間と労力を要します。
つまり、会社都合退職は「辞めさせた1人」の問題ではなく、組織全体のモチベーションと人材定着率に波及する問題なのです。こうした目に見えにくい損失こそ、会社が会社都合退職を避けたがる本質的な理由といえるでしょう。
会社都合退職で起こりやすいトラブルと事例

会社都合退職のデメリットを恐れるあまり、不適切な対応をとったことで深刻なトラブルに発展するケースは後を絶ちません。退職理由の偽装、離職票をめぐる争い、裁判での敗訴など、一つの判断ミスが企業に甚大な損害をもたらすことがあります。
ここでは、会社都合退職の実務で実際に起こりやすい3つのトラブルパターンを、具体的な事例を交えて解説します。いずれも「知らなかった」「悪意はなかった」では済まされないものばかりです。自社が同じ過ちを犯さないよう、事前にリスクを把握しておきましょう。
自己都合に偽装して行政指導を受けるケース
会社都合退職による最も深刻なトラブルの一つが、退職理由の偽装です。助成金の受給停止を避けたい、企業イメージを守りたいといった理由から、本来は会社都合退職であるにもかかわらず、自己都合退職として処理してしまうケースが実際に起きています。
典型的な手口としては、退職勧奨で退職を促したにもかかわらず、従業員に退職届を書かせて「自己都合退職」として離職証明書を提出するというものです。会社側としては書類上の形式を整えたつもりでも、退職した従業員がハローワークに「実際は辞めさせられた」と申し立てれば、ハローワークの調査が入ります。
調査の結果、退職理由が会社都合であったと認定されれば、離職票の退職理由は修正されます。それだけでなく、虚偽の離職証明書を提出した企業は行政指導の対象となり、悪質な場合は助成金の不正受給として処分を受ける可能性があります。不正受給が認定されると、すでに受給した助成金の全額返還に加え、返還額の最大20%の違約金が課せられます。さらに処分日から3年間はすべての雇用関連助成金の申請が不可能になり、事業者名が公表されるという厳しいペナルティも科せられます。
「従業員のためを思って会社都合にしてあげた」というケースでも問題は生じます。本来は自己都合退職であるのに、従業員の要望に応じて会社都合として処理した場合、これも事実と異なる申告にあたるため不正受給とみなされるおそれがあります。善意からの行為であっても、虚偽は虚偽です。退職理由は常に事実に基づいて判断し、記載しなければなりません。
離職票の退職理由をめぐる従業員との争い
会社都合退職のトラブルで最も頻繁に発生するのが、離職票に記載される退職理由をめぐる会社と従業員の意見の食い違いです。
離職票の退職理由は、失業保険の給付開始時期や給付日数を左右する極めて重要な項目です。会社都合退職であれば待機期間7日間の後すぐに給付が始まり、給付日数も最大330日と手厚くなります。一方、自己都合退職では原則1か月の給付制限がかかり、給付日数も最大150日に限られます。この大きな差があるからこそ、退職理由をめぐる争いは激しくなりがちです。
たとえば、職場でのハラスメントが原因で退職した従業員がいた場合を考えてみましょう。会社側は「本人が自ら退職届を出したから自己都合だ」と主張し、従業員側は「ハラスメントが原因でやむを得ず退職した」と訴えるといった対立が起こります。このようなケースでは、退職した従業員がハローワークに異議申し立てを行うことが可能です。
異議申し立てがあった場合、ハローワークは会社と退職者の双方から事情を聴取し、客観的な資料を確認したうえで最終的な退職理由を判定します。メールやチャットの記録、勤怠データ、録音データなどの証拠から実態が会社都合退職であったと認定されれば、会社が申告した退職理由は覆ります。
この争いの過程で、会社側には書類の再提出やハローワークへの説明対応が求められ、人事担当者の業務負担は相当なものになります。さらに、退職理由が覆った場合は助成金の受給資格にも影響が及ぶため、二重の損失を被るリスクがあります。退職の経緯は口頭でのやり取りだけで済ませず、面談記録や書面を残しておくことがトラブル防止の基本です。
解雇無効の判決で多額の賠償を命じられるケース
会社都合退職にまつわるトラブルの中で、企業にとって最も深刻な経済的ダメージをもたらすのが、解雇が無効と判断されるケースです。
日本の労働法制では、解雇権の濫用は厳しく制限されています。労働契約法第16条は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効とする」と明確に規定しています。この解雇権濫用法理のハードルは非常に高く、会社側が「正当な理由がある」と考えていても、裁判所が同じ判断を下すとは限りません。
解雇が無効と判断された場合、従業員の地位は解雇前の状態に戻ります。これは単に復職を命じられるだけでなく、解雇日から判決確定日までの期間分の賃金、いわゆるバックペイの支払いが命じられることを意味します。裁判が1年、2年と長引けば、その分だけ賃金の支払い額は膨らみます。月給30万円の従業員の裁判が2年続いた場合、バックペイだけで700万円を超える計算になります。
実際の裁判例を見ると、退職勧奨による退職を自己都合退職として処理した企業が、退職金の差額と失業保険の差額を合わせて約275万円の支払いを命じられたケースもあります。このケースでは、従業員に非がある退職勧奨であっても、退職を促したのが会社である以上、会社都合退職とすべきだったと判断されました。
こうした賠償金に加え、弁護士費用や訴訟対応にかかる人件費、さらには裁判の過程で企業内部の情報が公になるリスクも考慮すると、その損失は金銭的なものだけにとどまりません。解雇を検討する際は、法的要件を満たしているかを事前に弁護士や社会保険労務士に確認し、十分な証拠と手続きの記録を整えたうえで慎重に進めることが、結果として企業を守る最善の方法です。
会社都合退職を行う際に企業が取るべき対策

ここまで解説してきたとおり、会社都合退職には助成金の受給停止、訴訟リスク、風評被害など、会社側に多くのデメリットがあります。しかし、経営悪化による人員整理や、再三の指導にもかかわらず改善が見られない従業員への対応など、やむを得ず会社都合退職を選択しなければならない場面は現実に存在します。
重要なのは、会社都合退職そのものを避けることではなく、適切な手順を踏んでリスクを最小限に抑えることです。正しいプロセスで進めれば、訴訟に発展する可能性は大きく下がり、退職後のトラブルも防ぐことができます。ここでは、会社都合退職を行う際に企業が実践すべき4つの対策を解説します。
就業規則に基づく正当な手続きを踏む
会社都合退職でトラブルを回避するための大前提が、就業規則に定められた手続きを厳格に遵守することです。
解雇を行う場合、まず確認すべきは自社の就業規則に記載されている解雇事由です。「どのような場合に解雇が認められるか」が明文化されていなければ、解雇の正当性を主張することが困難になります。就業規則に解雇事由が定められていたとしても、解雇対象の従業員の状況がその事由に該当するかどうかを客観的に判断する必要があります。
具体的には、能力不足を理由とする解雇であれば、過去の評価記録、注意指導の記録、改善のために行った研修や配置転換の経緯など、段階的に対応してきた事実を記録として残しておくことが求められます。「何度注意しても直らなかったから解雇した」という口頭の説明だけでは、裁判になった際に会社側の主張を裏づけることはできません。
また、解雇手続きにおいては、退職金や未払い賃金の精算、社会保険の資格喪失手続き、離職証明書の作成と交付など、法令や社内規定に沿った事務処理を漏れなく行うことも重要です。手続きの不備は従業員の不信感を増幅させ、トラブルの火種になります。
解雇前に十分な説明と合意形成を行う
会社都合退職において最もトラブルが起きやすいのは、従業員への説明が不十分なまま一方的に退職を進めてしまうケースです。
解雇はその性質上、従業員の意思に関係なく雇用契約を終了させる行為です。だからこそ、解雇に至る前の段階で従業員に対して丁寧に説明し、可能な限り理解を得る努力をすることが不可欠です。
まず、なぜ退職が必要なのかという理由を具体的かつ誠実に伝えましょう。経営悪化による人員整理であれば、会社の財務状況や人員削減の必要性を説明し、対象者の選定基準についても透明性を持って開示することが望ましいといえます。従業員のパフォーマンスに問題がある場合は、これまでの指導内容や改善を求めてきた経緯を振り返りながら、なぜ解雇という結論に至ったのかを伝えます。
説明の場では、一方的に通告するのではなく、従業員が疑問や不満を述べる機会を設けることも大切です。面談の内容は日時、出席者、話し合った内容を記録として残しておきましょう。この記録は、万が一訴訟になった場合に「会社は誠実に対応した」という証拠になります。
従業員が退職に納得していない状態で解雇を強行すると、感情的な対立がエスカレートし、労働審判や訴訟に発展するリスクが高まります。時間と手間はかかりますが、解雇前のコミュニケーションこそが最大のリスクヘッジであると認識しておくべきです。
退職勧奨で円満な退職を目指す
会社側のリスクを最小限に抑えながら従業員に退職してもらうための最も有効な方法が、退職勧奨による合意退職です。
退職勧奨は、会社が従業員に対して「退職を検討してほしい」と提案する行為です。解雇のような法的強制力はなく、従業員が同意しなければ退職は成立しません。この「任意性」があることが、退職勧奨の最大の特徴であり、メリットでもあります。
退職勧奨を行う際のポイントは、従業員にとってのメリットを明確に提示することです。会社都合退職として扱われるため失業保険の給付条件が有利になること、退職金の上乗せや再就職支援を行う用意があることなど、具体的な条件を示すことで、従業員が前向きに検討しやすくなります。
ただし、退職勧奨には守るべきルールがあります。大人数で長時間にわたって圧力をかけたり、何度も執拗に退職を迫ったりする行為は、退職の「強要」とみなされ、違法と判断されるおそれがあります。面談は1対1もしくは少人数で、1回あたり30分から1時間程度に留めるのが一般的な目安です。従業員が明確に拒否した場合は、その意思を尊重し、一定の間隔を空けてから再度提案するという姿勢が求められます。
退職勧奨に応じてもらえた場合は、合意書を作成し、退職理由、退職日、退職金の金額、その他の条件を書面で明確にしておきましょう。口頭の合意だけでは、後から「本当は退職したくなかった」「退職を強制された」と争われるリスクが残ります。
社労士や弁護士に事前相談する
会社都合退職を検討する段階で、社会保険労務士(社労士)や弁護士といった専門家に相談することは、企業を守るうえで最も費用対効果の高い対策です。
多くの企業は、トラブルが発生してから専門家に駆け込む傾向にありますが、それでは手遅れになるケースが少なくありません。解雇の有効要件を満たしているか、手続きに法的な不備はないか、助成金への影響はどの程度かといった判断は、労務管理や法律の専門知識なしに正確に行うことは困難です。
社労士には、主に助成金への影響の確認、離職証明書の適切な作成方法、就業規則の整備や退職手続きの実務面について相談できます。特に助成金を活用している企業は、退職の時期や処理方法によって受給可否が変わるため、事前に社労士へ確認しておくことで不要な損失を防げます。
弁護士には、解雇の法的有効性の判断、退職勧奨の進め方に関するリーガルチェック、合意書や退職条件の作成、万が一の訴訟リスクへの備えについて相談できます。特に、従業員との関係がすでに悪化しているケースや、過去にハラスメントの申告があったケースなど、訴訟リスクが高い場面では弁護士の関与が不可欠です。
相談にかかる費用は、訴訟で敗訴した場合の賠償金や、助成金の不正受給による返還額と比較すれば、はるかに小さな投資です。「まだ大丈夫だろう」と自社だけで判断を進めた結果、取り返しのつかない事態に陥るよりも、早い段階で専門家の知見を取り入れることが、結果的に会社のデメリットを最小限に抑える最善策となります。
会社都合退職の正しい手続きと流れ

会社都合退職を適切に進めるためには、法令に基づいた正しい手続きを踏むことが不可欠です。手続きの不備や書類の記載ミスは、従業員との争いや行政からの指導につながり、前章で解説したようなトラブルを引き起こす原因となります。
会社都合退職の手続きは、大きく分けて「解雇予告の通知」「離職証明書・離職票の作成と提出」「各種書類の取り扱い」の3つのステップで構成されます。それぞれの段階で押さえるべきポイントと注意点を、実務の流れに沿って詳しく解説していきます。
解雇予告通知の方法と期限
会社都合退職の中でも解雇を行う場合、最初に必要となるのが「解雇予告」です。労働基準法第20条により、会社が従業員を解雇するには、少なくとも解雇日の30日前までに予告しなければならないと定められています。
解雇予告の方法について、法律上は口頭でも有効とされています。しかし、後のトラブルを防ぐためには、必ず書面で通知することが望ましいでしょう。「解雇予告通知書」には、解雇する従業員の氏名、解雇日、解雇の理由を明記し、会社の代表者名と日付を記載します。従業員に直接手渡しするか、内容証明郵便で送付すれば、「予告を受けていない」という争いを防ぐことができます。
30日前の予告が間に合わない場合は、不足する日数分の解雇予告手当を支払うことで対応が可能です。たとえば、解雇日の15日前に予告した場合は15日分の平均賃金を、即日解雇の場合は30日分の平均賃金を支払う必要があります。解雇予告手当は原則として解雇の通告と同時に支払うべきとされている点も覚えておきましょう。
なお、以下のケースでは解雇予告が不要とされています。試用期間中で雇い入れから14日以内の従業員、日々雇用される労働者(1か月を超えて引き続き使用されていない場合)、2か月以内の期間を定めて使用される労働者(所定の期間を超えて使用されていない場合)、季節的業務に4か月以内の期間で使用される労働者(所定の期間を超えて使用されていない場合)です。ただし、これらに該当するかどうかの判断は慎重に行う必要があります。
また、従業員の責めに帰すべき重大な理由がある場合は、所轄の労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受けることで予告なしに解雇することも可能です。ただし、認定を受けずに即日解雇を行えば労働基準法違反となるため、必ず事前に認定手続きを行いましょう。
離職証明書・離職票の作成ポイント
従業員が退職した後、会社が最初に行うべき手続きは「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」の作成・提出です。これらの書類は、退職日の翌日から10日以内にハローワークに提出する義務があります。
離職証明書は3枚複写の構成になっており、事業主控え、ハローワーク提出用、そして退職者に交付される離職票の3つがセットになっています。ハローワークで手続きが完了すると、「離職票−1」と「離職票−2」の2種類が交付され、会社はこれを速やかに退職者に渡さなければなりません。退職者はこの離職票をハローワークに提出して、失業保険の受給手続きを行います。
離職証明書の作成で最も注意すべきポイントは、離職理由の記載です。離職理由は退職者の失業保険の給付条件に直結するため、事実に基づいて正確に記載する必要があります。会社都合退職の場合は、「解雇(重責解雇を除く)」「退職勧奨」「事業所の廃止・縮小」など、該当する離職理由を選択します。
ここで絶対に避けなければならないのが、助成金への影響を恐れて事実と異なる離職理由を記載することです。前章でも触れたとおり、虚偽記載は不正受給にあたり、助成金の返還や3年間の申請禁止、事業者名の公表といった重い処分を受けます。
また、離職証明書には退職者本人の記名が必要な欄があります。退職者が離職理由に異議がある場合は、その旨を記載することが可能です。退職者が記名を拒否した場合は、その事情をハローワークに説明したうえで提出します。離職理由について会社と退職者の間で意見が食い違った場合、最終的な判断はハローワークが行うことになります。
退職届は不要?書類の取り扱い注意点
会社都合退職の場合、原則として従業員が退職届や退職願を提出する必要はありません。退職届は「従業員の意思で退職する」ことを示す書類であり、会社側の都合で退職させる場合には提出を求める法的根拠がないためです。
しかし実務の現場では、会社が従業員に退職届の提出を求めるケースが少なくありません。これには大きなリスクが伴います。会社都合退職であるにもかかわらず退職届を書かせた場合、書類上は「自己都合退職」の体裁が整ってしまい、退職理由の偽装とみなされる可能性があるからです。退職者がハローワークに異議を申し立てれば、会社都合退職に修正されるだけでなく、会社の信用にも傷がつきます。
退職勧奨による退職の場合は、やや事情が異なります。退職勧奨に応じた従業員に「退職合意書」への署名を求めること自体は一般的な実務です。ただし、この合意書の中で退職理由を「自己都合」と記載したり、退職届の形式を取らせたりすることは避けるべきです。退職合意書には、退職が会社からの退職勧奨に基づくものであること、退職日、退職条件(退職金の金額、有給休暇の消化など)を明記し、双方が署名するのが適切な形です。
会社都合退職に関連して会社側が整備・保管すべき書類としては、解雇予告通知書(解雇の場合)、退職合意書(退職勧奨の場合)、解雇理由証明書、離職証明書の控え、面談記録などが挙げられます。
特に「解雇理由証明書」は重要です。労働基準法第22条により、退職者から請求があった場合、会社は遅滞なく退職理由を記載した証明書を交付しなければなりません。この証明書は後日の訴訟や労働審判において重要な証拠となるため、曖昧な表現を避け、具体的な事実に基づいて記載することが大切です。
書類の取り扱いを一つ間違えるだけで、自己都合退職の偽装や不当解雇のトラブルにつながります。会社都合退職の手続きにおいては、「事実に基づいた正確な記載」と「書類の適切な保管」を徹底することが、会社を守る最大の防御策です。判断に迷う場合は、手続きに着手する前に社会保険労務士や弁護士に相談することを強くおすすめします。
まとめ:会社都合退職のデメリットを理解しリスクを最小限に抑えよう

会社都合退職は、会社側にとって多くのデメリットとリスクをもたらします。本記事で解説してきたポイントを改めて振り返りましょう。
会社都合退職は、やむを得ず行わなければならない場面もあります。しかし、正しい知識と適切な手続きがあれば、会社側のデメリットを大幅に軽減することが可能です。判断に迷った際は、自社だけで対応しようとせず、社会保険労務士や弁護士など専門家に早い段階で相談することが、結果として企業と従業員の双方を守ることにつながります。
