本記事では、傷病手当金の計算方法や計算式、具体的な支給額のシミュレーション、支給条件から申請方法まで詳しく解説します。自分がいくら受け取れるのか、正確に把握しておきましょう。
傷病手当金とは?

傷病手当金とは、業務外の病気やケガで仕事を休んだ際に、健康保険から支給される給付金です。休業中に給与が支払われない場合、被保険者とその家族の生活を保障する目的で設けられています。
給与のおよそ3分の2が支給されるため、療養に専念しながら生活を維持できる重要なセーフティネットといえます。うつ病や適応障害などの精神疾患も支給対象となるため、近年は精神的な不調による申請も増加傾向にあります。
傷病手当金の計算方法|基本の計算式

傷病手当金でいくらもらえるのかを知るためには、計算方法を理解しておくことが重要です。傷病手当金の支給額は、おおむね給与の3分の2が目安となりますが、正確な金額は「標準報酬月額」をもとに計算されます。
ここでは、傷病手当金の計算に必要な標準報酬月額の意味や確認方法、具体的な計算式について詳しく解説します。
標準報酬月額とは?確認方法を解説
標準報酬月額とは、毎月の給与を一定の幅で区分した金額のことです。健康保険料や厚生年金保険料の計算に使われるほか、傷病手当金や出産手当金の支給額を算出する際の基準にもなっています。
標準報酬月額は1等級(5万8千円)から50等級(139万円)まで区分されており、毎年4月〜6月に支払われた給与の平均額をもとに決定されます。原則として、その年の9月から翌年8月まで同じ金額が適用されます。
標準報酬月額に含まれる報酬は、基本給だけではありません。通勤手当、残業手当、役職手当、住宅手当など、労働の対価として毎月支給されるものはすべて含まれます。ただし、年3回以下の賞与や慶弔見舞金などの一時的な手当は含まれません。
標準報酬月額の確認方法
自分の標準報酬月額を確認する方法はいくつかあります。
①給与明細で確認する
会社によっては給与明細に標準報酬月額が記載されている場合があります。記載がない場合でも、給与明細に記載されている健康保険料の金額から逆算できます。
協会けんぽや各健康保険組合が公表している「保険料額表」と照らし合わせることで、自分の標準報酬月額を推測できます。たとえば、健康保険料が11,550円の場合、標準報酬月額は30万円と確認できます。
②ねんきん定期便で確認する
毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」には、直近の標準報酬月額が記載されています。35歳・45歳・59歳には封書で届き、より詳細な情報を確認できます。
③会社の人事・総務担当者に確認する
最も確実な方法は、会社の人事部門や総務部門に問い合わせることです。担当者は「被保険者標準報酬月額決定通知書」で全従業員の標準報酬月額を把握しています。
傷病手当金の計算式と1日あたりの支給額
傷病手当金の1日あたりの支給額は、以下の計算式で算出されます。
【計算式】
1日あたりの支給額 = 支給開始日以前12ヶ月間の各標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3
「支給開始日」とは、最初に傷病手当金が支給された日のことです。この日から遡って12ヶ月間の標準報酬月額を平均し、それを30で割って日額を算出します。さらにその3分の2が1日あたりの支給額となります。
【計算例①:標準報酬月額が一定の場合】
直近12ヶ月間の標準報酬月額がすべて30万円の場合
- 30万円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,667円(1日あたりの支給額)
1ヶ月(30日)休業した場合の支給額は、6,667円 × 30日 = 約20万円となります。
【計算例②:標準報酬月額に変動がある場合】
直近12ヶ月間のうち、10ヶ月が26万円、2ヶ月が30万円の場合
- 平均標準報酬月額を計算
- (26万円 × 10ヶ月 + 30万円 × 2ヶ月)÷ 12ヶ月 = 266,667円
- 1日あたりの支給額を計算
- 266,667円 ÷ 30日 = 8,889円(10円未満を四捨五入)
- 8,889円 × 2/3 = 5,926円(1円未満を四捨五入)
このように、昇給や降給があった場合は、12ヶ月間の標準報酬月額を平均して計算します。
【端数処理のルール】
傷病手当金の計算では、以下の端数処理が行われます。
- 30日で割った金額:10円未満を四捨五入
- 2/3を掛けた金額:1円未満を四捨五入
支給開始日12ヶ月未満の場合の計算方法
入社して間もない方など、健康保険の加入期間が支給開始日以前で12ヶ月に満たない場合は、通常とは異なる計算方法が適用されます。
この場合、以下の2つの金額を比較し、低い方の金額を基準として計算します。
①支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
実際に健康保険に加入していた期間の標準報酬月額を平均した金額です。
②全被保険者の標準報酬月額の平均額
加入している健康保険の全被保険者の標準報酬月額を平均した金額です。協会けんぽの場合、以下の金額が基準となります。
- 支給開始日が令和7年3月31日以前:30万円
- 支給開始日が令和7年4月1日以降:32万円
※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額
【計算例:入社6ヶ月で休業した場合】
入社から6ヶ月間の標準報酬月額が24万円、協会けんぽに加入している場合(支給開始日が令和7年4月1日以降)
①自分の平均標準報酬月額:24万円 ②全被保険者の平均額:32万円
①の24万円の方が低いため、こちらを基準に計算します。
- 24万円 ÷ 30日 × 2/3 = 5,333円(1日あたりの支給額)
【12ヶ月未満の計算が適用されるケース】
この特例的な計算方法は、以下のようなケースで適用されます。
- 入社してから1年未満で傷病手当金を申請する場合
- 転職の際に1日以上のブランクがあり、健康保険の加入期間が途切れた場合
- 国民健康保険から健康保険に切り替えて1年未満の場合
なお、同じ保険者(協会けんぽから協会けんぽなど)への転職で、前職と現職の間に空白期間がない場合は、前職の標準報酬月額も含めて12ヶ月分を通算できます。この場合は「健康保険加入状況等申告書」の添付が必要です。
【具体例】傷病手当金の計算シミュレーション

傷病手当金の計算式を理解しても、実際にいくらもらえるのかイメージしにくい方も多いでしょう。ここでは、具体的な月給をもとに傷病手当金の支給額をシミュレーションしていきます。
自分の給与に近いケースを参考に、おおよその支給額を把握しておきましょう。
月給30万円の場合の計算例
標準報酬月額が30万円の方が、病気やケガで1ヶ月間(30日間)休業した場合のシミュレーションです。
【前提条件】
- 直近12ヶ月間の標準報酬月額:すべて30万円
- 休業期間:30日間(うち待期期間3日間)
- 休業中の給与支払い:なし
【計算ステップ】
ステップ①:1日あたりの支給額を計算
30万円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,667円
ステップ②:支給対象日数を確認
休業期間30日間のうち、最初の連続3日間は待期期間となり支給対象外です。 支給対象日数:30日 − 3日 = 27日間
ステップ③:支給総額を計算
6,667円 × 27日 = 180,009円
【結果】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1日あたりの支給額 | 6,667円 |
| 支給対象日数 | 27日 |
| 1ヶ月の支給総額 | 約18万円 |
| 通常の月給との差額 | 約12万円減 |
月給30万円の方が1ヶ月休業した場合、傷病手当金として約18万円を受け取れます。通常の給与と比べると約12万円の減収となりますが、収入がゼロになるわけではありません。
なお、最長1年6ヶ月(通算)受給した場合の総支給額は、6,667円 × 約540日(1年6ヶ月分)= 約360万円が目安となります。
月給25万円の場合の計算例
標準報酬月額が26万円(月給25万円相当)の方が、2週間(14日間)休業した場合のシミュレーションです。
【前提条件】
- 直近12ヶ月間の標準報酬月額:すべて26万円
- 休業期間:14日間(うち待期期間3日間)
- 休業中の給与支払い:なし
※月給25万円の場合、標準報酬月額は「26万円」の等級に該当することが一般的です(報酬月額25万円〜27万円の範囲)。
【計算ステップ】
ステップ①:1日あたりの支給額を計算
26万円 ÷ 30日 = 8,667円(10円未満四捨五入) 8,667円 × 2/3 = 5,778円(1円未満四捨五入)
ステップ②:支給対象日数を確認
休業期間14日間のうち、最初の連続3日間は待期期間です。 支給対象日数:14日 − 3日 = 11日間
ステップ③:支給総額を計算
5,778円 × 11日 = 63,558円
【結果】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1日あたりの支給額 | 5,778円 |
| 支給対象日数 | 11日 |
| 2週間の支給総額 | 約6.4万円 |
2週間の休業で約6.4万円の傷病手当金を受け取れます。入院や自宅療養で2週間程度休む場合でも、一定の生活費を確保できることがわかります。
【1ヶ月休業した場合との比較】
同じ条件で1ヶ月(30日間)休業した場合:
- 支給対象日数:27日
- 支給総額:5,778円 × 27日 = 約15.6万円
入社1年未満の場合の計算例
入社8ヶ月目で休業することになった方のシミュレーションです。健康保険の加入期間が12ヶ月未満のため、特例的な計算方法が適用されます。
【前提条件】
- 健康保険の加入期間:8ヶ月
- 加入期間中の標準報酬月額:すべて36万円
- 加入している健康保険:協会けんぽ
- 支給開始日:令和7年4月1日以降
- 休業期間:30日間(うち待期期間3日間)
- 休業中の給与支払い:なし
【計算ステップ】
ステップ①:2つの基準額を比較
入社1年未満の場合、以下の2つの金額を比較し、低い方を採用します。
- ①自分の標準報酬月額の平均:36万円
- ②全被保険者の平均標準報酬月額:32万円(令和7年4月1日以降の協会けんぽの基準)
②の32万円の方が低いため、こちらを基準に計算します。
ステップ②:1日あたりの支給額を計算
32万円 ÷ 30日 = 10,667円(10円未満四捨五入) 10,667円 × 2/3 = 7,111円(1円未満四捨五入)
ステップ③:支給総額を計算
7,111円 × 27日(30日 − 待期3日)= 191,997円
【結果】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 適用される基準額 | 32万円(全被保険者平均) |
| 1日あたりの支給額 | 7,111円 |
| 1ヶ月の支給総額 | 約19.2万円 |
【ポイント】入社1年未満で給与が高い場合の注意点
このケースでは、実際の標準報酬月額(36万円)よりも低い金額(32万円)が計算の基準となりました。入社1年未満で給与が高い方は、想定より支給額が少なくなる可能性があることを理解しておきましょう。
逆に、自分の標準報酬月額が全被保険者の平均より低い場合は、自分の標準報酬月額がそのまま適用されます。
【入社1年未満で標準報酬月額が低い場合】
たとえば、入社6ヶ月で標準報酬月額が20万円の場合:
- ①自分の標準報酬月額の平均:20万円
- ②全被保険者の平均標準報酬月額:32万円
①の20万円の方が低いため、こちらが適用されます。
- 1日あたりの支給額:20万円 ÷ 30日 × 2/3 = 4,444円
- 1ヶ月の支給総額:4,444円 × 27日 = 約12万円
傷病手当金が減額・調整されるケース

傷病手当金は、支給条件を満たしていても満額が支給されないケースがあります。他の収入や給付金を受け取っている場合、傷病手当金との間で調整が行われるためです。
ここでは、傷病手当金が減額または不支給となる代表的なケースについて解説します。事前に把握しておくことで、受給額の見込みを正確に立てられるようになります。
給与が支払われている場合の調整
傷病手当金は、休業中に収入が途絶えた方の生活を保障するための制度です。そのため、休業期間中に会社から給与が支払われている場合は、原則として傷病手当金は支給されません。
【給与が支払われる場合の基本ルール】
休業中に給与の全額が支払われている場合、傷病手当金は支給対象外となります。ただし、給与の金額が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。
【差額支給の計算例】
傷病手当金の日額が6,667円、会社から支払われる給与が日額4,000円の場合:
- 傷病手当金日額:6,667円
- 給与日額:4,000円
- 差額:6,667円 − 4,000円 = 2,667円(この金額が傷病手当金として支給)
結果として、給与4,000円 + 傷病手当金2,667円 = 6,667円となり、傷病手当金の本来の日額と同額を受け取れます。
【調整の対象となる給与の種類】
以下のような支払いは、傷病手当金との調整対象となります。
- 休業中に支払われる基本給
- 各種手当(役職手当、住宅手当など)
- 賞与(休業期間に対応する部分)
【調整の対象とならないもの】
一方、以下の支払いは調整の対象外です。
- 見舞金・慶弔金:一時的な見舞金は給与とみなされません
- 有給休暇取得日の給与:有給休暇は傷病手当金の支給対象外の日となりますが、別途有給分の給与は受け取れます
【会社独自の休業補償がある場合】
会社によっては、休業中も給与の一部を支給する制度を設けている場合があります。この場合、会社からの支給額が傷病手当金の日額を下回れば、差額を傷病手当金として受け取ることができます。
会社の就業規則や休職規定を確認し、休業中の給与支給の有無を把握しておきましょう。
障害年金・老齢年金との調整
傷病手当金と障害年金・老齢年金は、同時に満額を受け取ることができません。年金を受給している場合、傷病手当金が支給停止または減額されます。
【障害厚生年金との調整】
傷病手当金を受給している方が、同一の病気やケガで障害厚生年金を受給することになった場合、傷病手当金は原則として支給停止されます。
ただし、障害厚生年金の日額が傷病手当金の日額より低い場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。
障害厚生年金の日額の計算方法
障害厚生年金の日額 = 障害厚生年金の年額 ÷ 360
※障害基礎年金も同時に受給している場合は、両方の合計額を360で割った金額が日額となります。
【計算例:障害厚生年金との調整】
- 傷病手当金の日額:6,667円
- 障害厚生年金の年額:180万円
- 障害厚生年金の日額:180万円 ÷ 360 = 5,000円
差額:6,667円 − 5,000円 = 1,667円(この金額が傷病手当金として支給)
【障害手当金との調整】
障害厚生年金に該当する程度より軽い障害の場合、一時金として「障害手当金」が支給されることがあります。
障害手当金を受給した場合、傷病手当金の累計額が障害手当金の金額に達するまで、傷病手当金は支給されません。障害手当金の金額を超えた分から傷病手当金が支給されます。
【老齢年金との調整(退職後の継続給付の場合)】
在職中は傷病手当金と老齢年金の調整は行われません。しかし、退職後に傷病手当金の継続給付を受けている方が老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金など)を受給している場合は、傷病手当金が調整されます。
老齢年金の日額の計算方法
老齢年金の日額 = 老齢年金の年額 ÷ 360
老齢年金の日額が傷病手当金の日額より低い場合は、差額が傷病手当金として支給されます。老齢年金の日額の方が高い場合は、傷病手当金は支給されません。
【計算例:老齢年金との調整(退職後)】
- 傷病手当金の日額:6,667円
- 老齢年金の年額:200万円
- 老齢年金の日額:200万円 ÷ 360 = 5,556円
差額:6,667円 − 5,556円 = 1,111円(この金額が傷病手当金として支給)
出産手当金との調整
出産手当金と傷病手当金は、どちらも健康保険から支給される給付金です。両方の受給条件を満たす期間がある場合、原則として出産手当金が優先され、傷病手当金は支給されません。
【出産手当金とは】
出産手当金は、出産のために仕事を休み、給与が支払われない場合に支給される給付金です。支給期間は、出産日(出産予定日より遅れた場合は出産予定日)以前42日間から、出産日後56日間までの範囲です。
【出産手当金が優先される理由】
出産手当金と傷病手当金の支給期間が重なった場合、出産手当金が優先的に支給されます。これは、出産という特定の事由に対して専用の給付制度が設けられているためです。
【差額が支給されるケース】
平成28年4月以降、出産手当金の日額が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が傷病手当金として支給されるようになりました。
【計算例:出産手当金との調整】
- 傷病手当金の日額:6,667円
- 出産手当金の日額:6,000円
差額:6,667円 − 6,000円 = 667円(この金額が傷病手当金として支給)
【調整が発生する具体的なケース】
出産手当金と傷病手当金の調整が発生するのは、以下のようなケースです。
- 妊娠中の切迫流産や妊娠悪阻(つわり)で傷病手当金を受給していた方が、出産手当金の支給期間に入った場合
- 産後の体調不良で傷病手当金を申請したが、まだ出産手当金の支給期間内である場合
【出産手当金の支給期間終了後】
出産手当金の支給期間(産後56日)が終了した後も、病気やケガで働けない状態が続いている場合は、傷病手当金を受給できます。
たとえば、産後の体調不良や帝王切開後の回復が長引く場合など、出産手当金の期間終了後に傷病手当金を申請することが可能です。
【労災保険の休業補償給付との調整】
なお、出産手当金や障害年金以外にも、労災保険から休業補償給付を受けている場合は傷病手当金との調整が行われます。
過去に労災保険から休業補償給付を受けていた病気やケガと同一の理由で再び働けなくなった場合、傷病手当金は支給されません。また、別の理由であっても、労災の休業補償給付を受けている期間中は傷病手当金が調整されます。
まとめ:傷病手当金の計算方法を理解し正確な支給額を把握しよう

傷病手当金は、病気やケガで働けなくなったときに生活を支えてくれる重要な制度です。
傷病手当金は給与の全額を補填するものではありませんが、休業中の生活を支える大きな助けとなります。いざというときに慌てないためにも、計算方法や申請手続きを事前に把握しておきましょう。
